アントレ2005年リユニオンレポート〜交渉学入門と座談会
みなさんこんにちは、2013年卒業生の加藤崇夫です。当講座は2002年にスタートしてから13年間開講し続けていますが、講座運営に関わる人を除くと卒業生がどうしているか知る機会はあまりありません。そのため最近ではこれまでの講座卒業生が集まるリユニオン(同窓会)の提供を開始しました。講座を受講した人たちがどのような進路を歩み、今何をしているのかを語り合う場所が欲しいと講座関係者が思ったからです。 ここでお伝えする2005年卒業生のリユニオンは、12月20日18時から文京区シビックセンターで実施されました。今回は和室を利用したため落語調の講演会になりました。
参加者について
2005年卒業生2名、TA1名、その他年度卒業生7名の合計10名が参加しました。当時は理系大学院生向けの東京大学の授業として開講されていましたが、卒業生には投資銀行や外資コンサルティングファームなどに就職した方が多く、今回の卒業生2名も大学卒業後は、外資コンサルティングファームに就職しています。
株式会社グリア 佐藤裕一さんの講義
佐藤さんは2005年に本講座を受講し、東京大学大学院工学研究科宇宙工学専攻から2007年にボストンコンサルティンググループに入社後、2010年に株式会社グリアを創業しました。企業向け研修とコンサルティング業務を行っており、主著には『理系のための交渉学入門』があります。今回は、佐藤さんが研修を行っている「交渉学」についてお話を聞きました。 交渉学とは、膨大な交渉事例の分析から体系化された学問で、ハーバード大学のMBAやロースクールなどでも人気の講座になっています。実際は、ロールプレイによるシミュレーション教育を行うそうで、今回は実際のケースを元に議論をすることを体験できました。今回のケースは、営業担当が取引き先から無理を言われた際にどういう行動を取るべきか、何を考えるべきか、ということを考えるというものです。 初めに営業担当が持っている条件(値引きに応じられるのか、どういう製品なのかといったもの)の設定を聞いたうえで、相手が言ってきた内容に対して営業担当になったつもりで対応を考えます。この営業担当の返答サンプルに対しても議論を行いました。たとえば今回の取引先は、値引きをしてくれたら将来の関係も有利になるという話を持ちかけてきています。しかし、会話のサンプルでは、営業担当はとっさに提示された額より低い割引率を提示して、結果的に値引きの話にのってしまっているというものでした。 この演習を通して、私達参加者はヒューリスティックという観点を学びました。ヒューリスティックとは経験則のことで、人間が瞬時に物事に対応する際に合理的考察を飛ばして判断してしまういわば反射的な判断のことです。今回のケースでは、断る選択肢や値引きの背景を聞くといった余地を排して「断るわけにはいかない」「値引きすれば今後の商談にも有利に働くだろう」といった憶測やバイアスのある状態で判断してしまうことです。この演習はとても盛り上がり、「交渉学について興味を持った」「本などを通して積極的に学んでいきたい」という意見が出るほどでした。
座談会
講演に続けて2005年度卒業生とTAによる座談会を開催しました。議題になったのは以下の通りです。
1.当時のアントレ講座の雰囲気
当時は東京大学工学系研究科の講義だったこともあり、「The理系」という人が多かったようです。「理系だけどビジネスもわからなくては!」といったような力の入った人が多かったようで、この講座を通じてビジネスに興味を持ち、外資コンサルティング会社や金融機関などに入る人が多かったそうです。また、当時のTAは講義にもフルコミットし、受講生の開くミーティングでも議事録をあげるなどかなりコミットする人もいたようです。
2.当時何を学んだのか
2005年に受講した当時、「自分でやる、決める」といったことを強く学んだというコメントが出ました。ミーティングでは、互いの主張がばらばらの中で、自分でやらないと進まないという気づきがあったそうです。高校の部活では、大会で勝つというわかりやすい目標があるのに対して、ビジネスプランの作成においてはその目標が曖昧になってしまい、まとまりにくいのではという言葉が印象的でした。 一方、TAはどこまで受講生を自由にやらせておけるかということの大事さというものを学んだそうです。TAからやれといわれてやるようでは、本当の意味での主体性は育ちません。自分から一歩踏み出して行動しないと何も起こらないということを感じてもらうために、進んでいないプランに対してあえて何も言わないということを意識していたそうです。受講生としても、自力でそこまでやれたということ自体に意味があるのではないかとのことでした。ミーティングの際もなるべく口を挟まず、その場にいて何か疑問があった場合にすぐさま答える機会を提供し続けていたことを聞き、改めてTAとしての在り方を考えさせられました。
3.今の受講生に期待すること
最近の受講生は、自分磨きのために講座を受講するといった動機が増えつつあるという状況について、若い時は自分中心の意識しかないのが問題という議論になりました。チームで何かを行うとき、自分の価値は組織との関係で決まります。ただ単純に自分を磨いてすごいというのでは足りなくて、一緒に行動する組織に対して、どんなバリューを発揮できるのかということを考えて欲しいという意見が出ました。
4.チャレンジしようとしていること
最後にそれぞれの会社や組織で具体的にチャレンジしたいことについて議論しました。佐藤さんは、これまで自分の時間チャージで仕事をしてきたが、今後は事業投資を行って時間によらずに収益をあげていきたいという、起業家としての抱負を語りました。会社に勤めている二人は、会社の中でルーチンワークをこなすだけでなく、交渉学のような新しい理論体系を学ぶ講座を実施したり、また社外に飛び出してプロジェクトを実施したいというコメントが出ました。それぞれ置かれた立場でチャレンジされようとしていることを聞き、自分自身ももっとチャレンジしなければと思いました。