古賀 良太 様  (2004年度受講生)

  • 東京大学大学院工学系研究科 (2007年3月 修了)
  • 株式会社クロスアビリティ 代表取締役

■アントレプレナーシップ論を受講された経緯を教えてください。

私が受講していた時は、東大の駒場キャンパスでの講座でした。
駒場の生産技術研究所で研究をしていたので、単位も取得でき、1時間かかる本郷に行く必要のない、同キャンパスの対面にある先端技術研究所で開講されていた本講座は魅力的に見えました(笑。
有機合成の研究が忙しい中で時間をとられるこの講義はきつかったですが、自分の専門以外の優秀な学生と気さくなTAに惹かれ、最終発表まで乗り切ることができました。

■受講当時の思い出を教えて下さい。

一番の思い出は本講座がキッカケでピアノが弾けるようになったことですね!
講座では最終発表会という場があり、一般の方をお呼びして、ビジネスプランを発表する場があります。
私は、最初に決められたチームにも所属しながら、一緒に受講していた研究室の先輩と当日勝手にチームを作り、2人で最終発表に臨みました。
その先輩はピアノが非常に上手で、独自の「ピアノ練習メソッド」を持っていました。
そのメソッドをビジネスプランに落とし込んだのが、私のチームの提案だったのですが、提案するのにピアノが弾けないのはマズイという事で、独自メソッドで練習した結果、3曲ほど弾けるようになりました。最終発表後の懇談会では、一般の方から具体的な練習法を聞かれるなど、多くの反響がありました。
知財の保護策を十分に考えていなかった上、信用が確立されてない独自のノウハウを元に事業を考えたので、技術ベースのビジネスプランとしては全く評価されず最下位でしたが、面白いというただ一点のみにおいて一般の聴衆、特にピアノに興味のある女性を惹きつけるプレゼンが出来たことは誇りに思っています。

■起業に到った経緯と大変だったことを教えてください。

○大学院修了後、ベンチャー企業に就職
学生の時に、インターンでメーカー、コンサル、投資銀行などの大手企業を経験し、自分には大企業はどこも性に合わないと感じました。そこで大学院修了後は得意だった化学とコンピュータがどちらも生かせるベンチャー企業に入社しました。主に科学技術関連のSIerとして技術営業も含めて1年ほどガムシャラに勤務したところで、優秀な先輩方が社長と対立したのを期に私も転社を試みました。それは、その会社において自分の各種スキルを向上させるのが難しいと考えたからです。

○優秀な仲間と『無計画』に起業
私は、各種転職エージェントを頼り、“自分に合った”会社を探しましたが、転職活動中にそもそも会社員である限りどこでも同じになりそうだと感じました。私は何でも興味があって、ただコンピュータと化学のバックグラウンドは生かせると得かなくらいにしか考えていなかったために会社が全て同じように見えたのです。たまたま、私より少し前に会社を退職した、元ハッカーで、非常に優秀なプログラマの友人がいました。そこで、転職活動に区切りをつけ、一緒に何かやろうぜ、俺らとりあえずソフトウェア作れるから何とかなるだろ、というノリでその友人と一緒に株式半々で“無計画に”会社を作ったわけです。

○『無計画』から『Survival』へ
経験豊富なプロフェッショナルが周到な事前準備をして作った会社ではなかったので、最初は学生と大して変わらないクオリティの事業アイデアをいくつかだして、講座のスーパーバイザーである柴田さん含めビジネスに造詣のありそうな方に意見を聞き回る計画性の無さでした。最初の2~3ヵ月は前職引継ぎの月十万円くらいの仕事以外は売上ゼロで、これはやばいな、世の中甘くないなと実感しましたね。そこで現実に目覚め、目先のキャッシュを得るために、つまらないがとりあえず、ということで最初は学生時代にプログラミングバイトでお世話になった会社の社長に大企業出向開発の仕事を電話で“強引に”もらいました。これでまあ、安いサラリーマンくらいの給料+新しいソフトの開発投資資金くらいにはなりました。このような感じで、“使える”人脈があったのは助かりました。本当にやばいな、と思うと研ぎ澄まされ、過去の引き出しを片っ端から引き出して何とかサバイバルしようとするわけで、これは副業で保険かけて事業やっている人には難しいかもしれません。また会社を経営していると、他企業との提携も重要になります。提携先や組み方を判断する上で重要なことは、「自分がどんな人や会社と合うのか」です。私は本講座を通じて、自分が「冷静なタイプではなく、情熱と信念で動くタイプ」であると認識し、現在も判断の軸としています。
他、エンジニアの短期間の会社員しか経験がないのでなんともいえませんが、会社を始めると、色んな経緯で自然と今までにあったこともない社長やサムライ業の方々などに出会えるようになり、視野が急速に広がりました。

○会社経営のこれから
そうして試行錯誤を繰り返しながら、1~3年目を黒字収支・3年連続増収増益で終えることができました。請負仕事以外に、大学と連携しつつ自己資金で確立した事業のキャッシュフローの拡大と同時に、サポートメンバーを少しずつ増やしたり、いわゆる事業が“クロス”して派生してきた、ベンチャーキャピタルも構想段階から協力してくれるビジネスモデルの検討など、少しずつ個人事業主×人数分の会社からビジネスをやる会社に変わりつつあるのを感じます。

■事業内容について教えてください。

私の会社は主に2つの事業を展開しています。
3名役員がいて、主に私も含めた2名が注力しているのが計算科学事業です。
計算科学というか、化学が今はメインです。理系の方なら理解しやすいと思うのですが、シミュレーション(※)をサポートするソフト開発や、関連するサーバの販売サポート、および科学技術計算クラウドコンピューティング構築などをやっています。
※コンピュータシミュレーションというのは、コンピュータ(仮想空間)上で物や現象を数式で表現し、コンピュータに計算させることで、現実の事象の理解を助けたり、予測に使われたりする技術です。
このコンピュータシミュレーションというのは、コンピュータの性能が非常に重要になります。計算科学事業部が開発したソフトウェアを使用すると、化学分野において、以前は十分に発揮出来ていなかったコンピュータの性能を引き出して、シミュレーションのコストパーフォマンスを向上させることができますので、主に製薬や化学分野の大企業や大学がクライアントになっています。

もう1つはセンサネットワーク事業です。
センサネットワークの最近の事例では、ドコモが2,500箇所の基地局に設置した花粉センサで取得した花粉飛散量のデータを気象情報会社や製薬会社に提供する事業を始めています。この情報を使い、ウェザーニュースが花粉飛散量を携帯電話で見られるように提供するサービスを始めました。
弊社が提供するのは、センサでデータを取得する部分をリモートで行うことを可能にするデバイスですが、主に農業分野で使われるセンサに強みを持っています。具体的には、基礎的な気象データや土壌水分センサなどになりますが、これらのセンサをリモートで駆動させるフィールドルータという製品の開発・設置・保守を行っております。現地に人が出向かなくてもセンサの生データを取れるので、JAXAの海外での実証実験に使われるなど、主に研究機関にご採用いただいます。
この事業は主として海外で展開されています。
過去には、2008年の6月にヒマラヤの氷河湖が決壊の危機になった際、現地に設置したフィールドサーバー(フィールドルータの前身)が『クローズアップ現代』で取り上げられたこともあります。

■起業家を目指す人に一言お願いします。

ホリエモンとほとんど同意見ですが、起業したきゃすればいいんじゃないの?ということです。ただ、研究や技術が超優秀な人には経営のこととか一切考えず、世の中の役に立つ研究や開発に邁進してほしいという願いはありますけどね。超のつく優秀な人ではない多くの人にとっては行動が最も重要で、とにかく試行錯誤しながら実践で学ぶのが一番です。私は“テキトー”に始めた人ですが、実際に始めてから実践で学ぶものが多く、小さい仕事をこなしていくにつれて、周囲から起業家として見られるようになり、志も高まりますし夢も膨らむことが分かりました。
それらをより高められるかは向上心やセンスなどに依存するわけですが、柴田さん(講座主宰者)によりセレクションされた優秀な人間が集まっている本講座において切磋琢磨することで、それらが開花し、自分にとっての起業というものをどのようにすればいいのか、より真剣に考える契機になるかもしれませんね。

■株式会社クロスアビリティの事業内容

○計算科学事業部
計算化学分野の自社ソフトウェア開発・販売(Winmostar etc) 、および計算科学に関係したスクラッチ/カスタム受託ソフトウェア開発およびデータ解析
○センサネットワーク事業部
フィールドルータ(AC不要の環境モニタリングデバイス)の開発・販売
株式会社クロスアビリティ : http://x-ability.co.jp/